つながろう「ことば」で。

各界の著名人による「ことば」についてのコラム

作家 三浦 しをんさん

好奇心、世界広げる
作家 三浦 しをんさん

元灘中・高教師 故・橋本 武さん

労力かけて学べば、いつか必ず役立つ
元灘中・高教師
故・橋本 武さん



作家 あさの あつこさん

「ことばを知ること」が「生きる力」に
作家 あさの あつこさん

作家 荒俣 宏さん

「背伸び」のススメ
作家 荒俣 宏さん

歌人 俵 万智さん

言葉のうたを三首
歌人 俵 万智さん

冨永 格さん

朝日新聞「天声人語」の元執筆者より
冨永 格さん

作家 三浦 しをんさん
作家 三浦 しをんさん

●作家・三浦しをんさんに聞く
 子どもの頃から本が好きでした。父は国文学者なので、書斎には本がいっぱい。私は書斎に入っては広辞苑を取り出し、床に座ってめくっていました。幼稚園ぐらいのころですから、まだ読めはしません。広辞苑の分厚さや重み、紙のひんやりした感触やインクの匂いが好きでした。

 中学生になると、辞書に載っている仏像の図版を、ノートに模写していました。大日如来とか、不空羂索観音(ふくうけんじゃくかんのん)とかを気の向くままに。それが楽しかった。

◆辞書手放せない
 作家になってからは、ますます辞書を手放せなくなりました。新しい辞書を買えば、エッチな言葉を調べます。どう説明しているのか知りたい好奇心というか下心、欲望ですね。調べる時は、目的の言葉に行き着くまでに、別の言葉や図版にも寄り道します。その度に、まだまだ知らない世界があるな、と気付かされる。

 小説を書くときは、すごく考えて言葉を選び、場面によっても使い分けます。「とても喜んだ」と書くか「欣喜雀躍(きんきじゃくやく)した」と表現するかなど、辞書を引いて、微妙なニュアンスを考えて決めます。大切なのは、多くの人に同じ意味に取ってもらえるような言葉を選ぶこと。でないと、自分の思いは正しく伝えられません。そのためにも、語彙は豊富な方がいい。

 何を見ても「きれい」「かわいい」と言うだけでは、気持ちは伝えきれません。知っている言葉だけでいい、通じる人とだけ通じ合えればいいと考えていたのでは、語彙は増えないでしょう。

 語彙を豊富にするには、好奇心を伸ばすことです。子どもの好奇心を育てるのは、大人の責任です。興味を伸ばして「知る楽しさ」を感じさせる。そうしないと、「マジうぜえ」の一言で会話が終わってしまう若者ばかりが育ってしまう。

◆通じ合うために
 私の語彙も、それほど多くはありません。でも、多くありたい。知らない世界を知りたいと願う好奇心は、持ち続けています。

 コミュニケーション力は、読解力なのだと思います。読解力とは文章を読み解くことだけじゃない。相手が何を考えて語り、行動したのか、言葉だけでなく表情や身ぶりも含めて読み取ることです。

 私も、例えば編集者から「何とかなりますよ」と言われると「原稿が遅くて怒っているのだろうか」などと、言葉の裏を読もうとする。でも、時にそれは的外れだったり、空回りだったりします。読解力って、ものすごく大事です。

 お互いに行き違うこともありますが、言葉は、相手を傷つけ怒らせるためではなく、通じ合うためにこそあるのです。「おまえも俺も、存在して良し!」と思うために。だからこそ「もっと語彙を広げよう」と、前向きに考えることが大事なのではないでしょうか。

◆準1級難しい!
 語彙・読解力検定の準1級、難しいですね。語彙問題は漢字も手ごわいし、経済用語なんて、全く知らなかった言葉もあります。

 読解問題は好きです。「引っかけ問題だな、これ」なんて出題者の意図を探り、裏をかき合う。問題文の筆者だけでなく、出題者ともコミュニケーションする気分になれます。

 検定の受検をきっかけに好奇心を伸ばして、「新聞をよく読もう」とか「知らない分野にも関心を広げよう」と考えてみるのもいいでしょう。

 もし、検定で初めて出合った言葉があって、その時は意味がわからないまま終わってしまったとしても、その出合いは頭に残ります。別の機会に、またその言葉に触れれば「これ、見覚えがあるな」と思い出す。そんな出合いを繰り返して、言葉はだんだん自分のものになっていくのです。

 (2012年8月20日の朝日新聞より)

元灘中・高教師 故・橋本 武さん
元灘中・高教師 橋本 武さん

「すぐに役立つことは、すぐに役立たなくなる。労力をかけて学んだことは、いつか必ず役に立つ」「国語は学ぶ力の背骨である」

 橋本武さんの言葉だ。71歳まで続けた灘中学・高校での教師生活で指導した教え子には、作家の故遠藤周作さんや、黒岩祐治・神奈川県知事らがいる。

 橋本さんを「伝説」にしたのは、中学の3年間をかけて中勘助の「銀の匙」を勉強させた授業だった。「銀の匙」は約100年前に書かれ、病弱な少年の成長を描いた自伝的小説。夏目漱石が絶賛し、世代を超えて読み継がれている。

 教科書は、橋本さん独自のプリント。それらは、「銀の匙」の75の章別に作られている。

 上のほうに「注意すべき語句」が並び、その下に生徒が意味を書き入れる。「粉煙草」「ふっくらとした音」など、語句の選択は幅広い。次に、これらの語句を使った「短文の練習」欄が続く。さらに、各章の表題を生徒が考えて書き、章の内容を整理したり200字に要約したりもする。「主題の取り上げ方に、どんな工夫がなされているか」などを説く橋本さんのヒントを参考に、「鑑賞ノート」にも取り組む。

 生徒たちはこのプリントを仕上げることで、いつの間にか国語力を身につけたという。

 それだけではない。橋本さんは、小説に「河童(かっぱ)」という言葉が出てくれば、河童にまつわることわざや各地の伝説を教えた。駄菓子の描写があれば、駄菓子を食べさせた。体で物語を味わわせようという狙いだ。

 読解の域を超えた、横道にそれた指導。だが、そこにこそ宝の山があった。「横道にそれる授業を意識した。横道から戻ると、本筋が前より豊かになる」

 橋本さんが「銀の匙」と出会ったのは、教師になって間もない頃だった。「『たおたおと羽ばたいて』といった表現の美しさにひかれました。また私も幼少期に病弱だったので、主人公と重ね合わせられました」

 戦後の墨塗りの教科書の時代、生徒の中に生涯残る教材を探していて「銀の匙」を選ぶ。教える前に、疑問点を中勘助本人に手紙で尋ねた。やがて交流が始まり、いつしか、家を訪問するまで親しくなっていた。

 「学ぶ力の背骨」としての国語力を習得するには何が必要か。橋本さんは、手当たり次第に本を「読む」ことを勧める。「いろんな情景を思い描く力がつきます」。次に「書く」こと。判断力、集中力、構成力が養われる。橋本さんは生徒に読書感想文を書かせたが、出せば満点にしたので、生徒は自由に書けた。「手書きがいい。パソコンでは、せっかくの能力を伸ばすチャンスを逃してしまう」

 学生時代、「大漢和辞典」を編集した諸橋轍次(てつじ)さんの仕事を手伝った。諸橋さんの「何でも突き詰めてゆく態度」を見て、影響を受けた。それが、後の指導法につながった。

 71歳で教師を辞めると、今度は「源氏物語」の現代語訳にライフワークとして取り組んだ。足かけ9年、94歳のときに和とじ本63冊として完成させた。今は、120歳の大還暦まで生きるのが夢だ。そんな橋本さんは最近、こんな歌を詠んだ。

 <生きるとはこの世に享(う)けし持ち時間悔いを残さず使い切ること>

(2012年4月21日の朝日新聞より)

作家 三浦 しをんさん

好奇心、世界広げる
作家 三浦 しをんさん

元灘中・高教師 故・橋本 武さん

労力かけて学べば、いつか必ず役立つ
元灘中・高教師
故・橋本 武さん



作家 あさの あつこさん

「ことばを知ること」が「生きる力」に
作家 あさの あつこさん

作家 荒俣 宏さん

「背伸び」のススメ
作家 荒俣 宏さん

歌人 俵 万智さん

言葉のうたを三首
歌人 俵 万智さん

冨永 格さん

朝日新聞「天声人語」の元執筆者より
冨永 格さん

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